前回のブログでは、生命保険営業の特徴と、なぜ難しいと言われるのかについて解説しました。
第2回目の今回は「採用」について考えてみたいと思います。
通常、会社に勤める際にはかなりの準備が必要になります。
会社について調べて、事業内容について調べて、志望動機を考えて、面接の練習をして・・・
このように、かなり多くの努力をされたはずです。
しかも生命保険は形のない商品のため、販売するのはとてもむずかしいです。
そんな商品を売るためには、気持ちも能力もかなりレベルが高い人ではないと生き残っては行けません。
ただ、結論から言ってしまえば、この採用プロセスにこそ保険業界が抱える大きな問題があると考えています。
これから生命保険会社に営業職員として入社しようと思っている方にも参考にしてもらえたら幸いです。
営業職員採用プロセスとは?
ここから、実際の生命保険会社の営業職員採用プロセスについて簡単に説明します。
思いを持って入社する方や、非常に優秀な方も一部いらっしゃいます。
ただほとんどの方はそうではないと思います。
ちなみにここで話しているのは、あくまで「営業職員採用」のことです。
「内勤社員採用」ではないのでご注意ください。
採用プロセス①「採用目標が降りてくる」
まず、生命保険会社の営業所には「採用人員目標」というものがあります。
人員を採用することは、とても大事な必達の目標と言われています。
具体的には、「今年はこの営業所で何人採用すること」という目標が年始に降りてきます。
これを達成するために、現役職員の知り合いを紹介してもらったり、採用イベントを開いて営業所に来てもらったり、ハローワークの前でチラシ配ったり等色々な施策を実施します。
ちなみに生命保険会社では、新規の保険1件以上に採用1名が重要です。
採用プロセス②「面接の実施+入社の同意=採用」
話を聞いてくれる人ができたら、営業所に来てもらい、面接を行います。
ただ、面接と言っても、新卒の就職活動の面接とは少し様子が違うようです。
とある生命保険会社の営業所長と話した際には、「とりあえず人間で日本語が話せれば採用」と言っていました。
面接を行い、相手に入社の合意がもらえたらほぼ入社できるので、採用数自体はかなりの人数にあります。
では、なぜここまで多くの人数を採用するのでしょうか?
採用する側もコストが掛かりますし、すぐやめるような人は採用したくないはずです。
もちろん、長く続けてくれるのが一番ですが、すぐに辞めても保険会社としてはメリットがあります。
その理由についても説明します。
なぜ短期離職でも問題ないのか?
なぜ、生命保険会社の営業職員は、短期離職でも問題ないのでしょうか?
それは、「生命保険」という商品の特徴に理由があります。
生命保険は、契約が非常に長期になります。
つまり、職員が辞めても契約が続く限り、保険会社には保険料が振り込まれます。
しかも、売れない職員に払う給与は僅かですし、販促品なども職員が個人で購入しますので会社の負担は社会保険くらいです。
だから短期で辞めてしまっても、そこまで保険会社は痛くないんですね。
最悪身内の契約だけ入ってやめても、その契約が続いている限りは保険会社としては利益になります。
むしろ「大量採用・大量脱落」が日本の生命保険会社のビジネスモデルかもしれません。
これも生命保険のイメージを悪くしている1つです。
大手4社の採用数と職員在籍数を見てわかること
大手4生保(日本生命・第一生命・住友生命・明治安田生命)の、直近の採用数と年度末在籍数を表にしてみました。
※各社ディスクロージャー誌から抜粋
ここからは「保険会社が抱える問題」と「働く側が抱える問題」の2つが見えてきます。
順番に考えてみたいと思います。
保険会社側の問題点「大量採用・大量離脱」
まず、保険会社側の問題点は「大量採用・大量離脱」が状態化しているということです。
先程の表を見れば分かる通り、4生保のみで毎年2.5万人ぐらい営業職員を採用しています。
もちろんこの4社内で転職した人もいるので一概には比較できませんが、すごい人数ですよね。
この採用人数のほとんどは「女性」です。
2019年の女性の就業者数は約2,950万人。
これだけたくさんの会社がある日本の中でたった4社で女性の雇用の1%を支えていると考えれば、ある意味尊敬に値します。
ただ合わせて気になるのは、採用数の割には在籍数が増えていないことです。5000人以上採用しているのに人員減の会社もあります。
これは非常に大きな問題だと思います。
確かに会社は職員が辞めてもいいのかもしれません。
ですが担当がいきなりいなくなるお客様は、たまったものではありません。
コロナ禍で各保険会社とも採用人数を減らし、質の高い職員さんの育成を行う方針を打ち出しているので、今後は大量脱落が無くなることを祈るばかりです。
働く側の問題点「保証給の期間だけ働けばいいと考えている」
次に働く側の問題ですが「保証級の期間だけ働けばいいと考えている」ということです。
前回のブログでもお伝えした通り、入社してから最初の期間は保証給がもらえます。
その期間だけ働いて、保証給期間が終わったら次の仕事を探せばいいと思っている人は少なからずいらっしゃいます。
生命保険は「人生に二番目に高い買い物」と言われます。
その契約をお預かりしておいて、すぐに辞めてしまうのはあまりに無責任です。
中途半端な知識で売れるほど簡単なものではないですし、その後の見直しこそ生命保険の肝になるところです。
そのあたりを理解した上で働いてもらいたいですね。
生命保険営業のあるべき姿は?
ここからは、私が考える生命保険営業のあるべき姿についてお伝えします。
私も15年位保険会社にいました。
15年前と比べると、生命保険業界もかなり変わったと思います。
以前は保険は知り合いから入るものでしたが、今は保険は選ぶ時代になりました。
以前は営業職員からの加入が大半でしたが、代理店経由の加入のほうが今は多くなっています。
ただまだまだ変わりきれていないことろはありますので、3つの改善すべきポイントを書いてみました。
相談料無料をやめる
1つ目は、「相談料無料をやめる」ことです。
弁護士に相談する場合「30分5000円」が相場です。
依頼をする場合は、「着手料」や「成功報酬」が必要になります。
ですが「保険の相談」や「お金の相談」は無料です。
個人的には、これはいかがなものかと考えています。
しっかり相談に乗り、お客様の問題を解決してあげるわけなので、相談料はもらってしかるべきだと思います。
無料でできる理由は「日本の金融機関が販売手数料制を採用しているから」です。
相談に乗った後に自社の商品を販売することで手数料をもらえるので、相談料をもらわなくてもいいんですね。
しかも保険の販売手数料は群を抜いて高いです。
確かに、無料のほうが相談件数は増えます。
ただ商品販売が前提となり、顧客利益の最大化ができるのかが疑問です。
保険会社の営業職員は、自社商品を販売しないといけないので仕方ないかもしれません。
ですが「ファイナンシャルプランナー」を名乗って仕事をしている人は、相談料を有料にしてもいいので、顧客利益の最大化を考えるべきだと思います。
「保険の本来の目的」を考える
2つ目は、「保険本来の目的を考える」ということです。
金融商品としての保険の機能は「リスクの移転」です。
つまり「発生頻度は低いが、発生したときの損害が大きいものに備えること」が保険の役割と言えます。
しかし、生命保険をメインで販売する人は「生命保険で何でもできる」ような話をする方がまだまだ多いでしょう。
確かに生命保険は多くの人が加入しているので、お客様にお金について興味を持っていただくきっかけにはなります。
ただ「保険本来の役割」などを話さないまま、いろんな保険を勧めるのはあまり感心できません。
まずは「保険で備えるべきリスク」についてしっかりと話した上で、それ以外に保険でできることを説明してあげるべきだと考えます。
一人のお客様と長く付き合える環境をつくる
3つ目は「一人のお客様と長く付き合える環境をつくる」ことです。
生命保険の営業は「いかに新規顧客を作り続けるか」が本質です。
たとえ既存のお客様の役にどれだけ立っていても、新規顧客が作れなくなった瞬間に退職せざるを得ません。
人間は生きてから死ぬまでに、「就職」「転職」「結婚」「出産」など様々なイベントを経験します。
本来であれば、こういったタイミングで保険は見直さなければなりません。
ただ、そのタイミングで担当者がやめてしまっていたら、保険を見直す機会もないままの場合も考えられます。
そうならないためにも、営業職員の新規採用ではなく「今いる営業職員のスキルアップ」にもっと力をいれていただきたいです。
コロナを経験して採用戦略を変えたことで、このあたりは変わっていくかもしれませんね。
まとめ
色々偉そうに書いてしまいましたので、業界関係者の方はあまりいい気持ちにならなかったかもしれません。
ただこれまで、保険で嫌な思いをした人を本当にたくさん見てきました。
「保険という商品に罪はなく、保険を販売する会社とそれをすすめる募集人に罪がある」
この一言に尽きると思っております。
一人でも多くの方が「保険に助けられた」と思えるようになってもらいたいです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。